会計士→配管工、給与3倍

人工知能(AI)が人間の知的労働を代替し始めた。オフィスを去って、職業訓練校で配管工や空調整備などの技術をリスキリング(学び直し)する人たちが米国で増えている。これまで新しいテクノロジーは既存の雇用を脅かすと同時に新産業を創出し新たな職を生み出してきたが、AIでそれは望みにくいと専門家は警告する。と日経記事にあります。

米カリフォルニア州サンノゼ近郊で働く配管工、チョン・マイさん(47)の朝は早い。今の現場は米半導体製造装置大手アプライドマテリアルズの研究拠点の新築工事。まだ薄暗い午前6時に現場に着き、午後2時半に作業を終える生活を送る。高校卒業後は名門カリフォルニア大学バークレー校などで学び、会計士として働いていた。2019年、知人に「数学の知識を生かせてもっと稼げる仕事があるよ」と配管工を紹介され、職業訓練校に通った。ブルーワーカーに転身した今は月に1万2000ドル(約190万円)を稼ぎ、会計士時代の3倍だという。

マイさんは「会計業務はAIでもできるけど、配管工は人間にしかできない。会計士で培った交渉力も生きる」と話す。「昔はブルーカラーは『汚い仕事だ』と嫌悪されたが、最近はスキルの差別化に悩む大卒のオフィスワーカーがここでリスキリングしているよ」マイさんが通ったサンノゼ配管技能訓練センター。在籍生徒は18~55歳の460人で、24年より4割増えた。訓練責任者のブライアン・マーフィー氏は「最近は教員や事務職からの転身者が目立つ」と話す。

キャリアに迷う人々を引き寄せるのは、手厚いスキルアップの体制と賃金体系だ。同センターは組合の教育部門という位置づけで、配管や冷暖房空調装置などを扱う5年間の訓練と現場実習を無償で提供する。組合が3年ごとに賃上げ交渉してくれ、医療保険や退職金などの福利厚生もある。全米で学生情報を集約するナショナル・スチューデント・クリアリングハウスによると、25年春は職業訓練校の入学者数が前年比12%増えた。伸びは大学入学者(4%増)より大きい。

米国でブルーカラーが注目されているのは、AIによって知的労働が代替されることへの不安の裏返しだ。米フォードモーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は「AIでホワイトカラー職の雇用が半減する」と語った。米アマゾンドットは10月末、世界の管理部門を中心に1万4000人の従業員を削減すると発表した。「AIが直接の理由ではない」と説明したが、AIの影響を受けやすいエンジニアが対象に含まれていた。

アマゾンを解雇された男性はかつて「肉体労働はいずれロボットに奪われるだろう」と、リスキリング制度でプログラミングを習得した。「それなのに今は知的労働や創作活動をAIが担い、人間は配管工への再リスキリングが必要になっている」とため息をつく。AI失業を巡る議論を巻き起こしたのは、英オックスフォード大学のカール・フレイ氏とマイケル・オズボーン氏が13年に発表した研究だった。10~20年間のうちに米国の職の47%がAIをはじめ機械で置き換わると発表し、衝撃を与えた。18世紀に始まった産業革命以降、経済成長と雇用創出をけん引したのは自動車や電機産業といった全く新しい分野の台頭だった。テクノロジーも新しい仕事を生んだ。

今回の記事は、AI が仕事の定義そのものを変え始めた「転換点」であることを示しています。

つまり、

▶ 仕事は減るのではなく、

▶ 「価値を生む仕事の種類・構造が大きく変わる」

と考えさせられる記事でした。