ルンバ破綻「消費者目線不足」

「ルンバ」を開発する米アイロボットが経営破綻し、中国企業に買収される。ロボット掃除機の先駆者は、消費者目線を欠いた商品開発や米欧の規制当局による買収阻止と相まって、急速に台頭した中国勢にのみこまれた。アイロボットは14日に米連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請した。破綻に至った要因は大きく3つある。と日経記事にあります。
アイロボットは2002年に初代ルンバを発売した。米国で200ドル(当時の為替レートで約2万5000円)と、ロボット掃除機を初めて一般家庭に手の届く価格で売り出した。2年足らずで100万台を販売し同分野のリーダーとなった。当初のごみを吸い込み壁にぶつかって方向転換する仕組みから、ごみの多い場所を見分けるセンサーや充電場所に自動で戻る機能を搭載しスマートフォンとつながるように進化。10万円前後の高価格帯に市場を広げた。
だが10年代後半、消費者ニーズを読み違え破綻の1つ目の要因となる。間取りや家具の配置を把握し効率的に掃除するための地図作成に高性能センサー「LiDAR(ライダー)」を採用せずカメラ使用にこだわった。床を水拭きするモップ機能をルンバに備えるのも遅れた。消費者が求めたのは1台でごみの吸引と床のモップがけを担う一体型の製品だった。ゲイリー・コーエン最高経営責任者(CEO)は当時を「技術はあっても消費者中心の発想を欠き、複数の機能で競合に遅れた」と振り返る。
2つ目の要因は中国勢の追い上げに直面したことだ。筆頭がエコバックス・ロボティクス、14年設立の北京石頭世紀科技(ロボロック)、17年設立の追覓科技(ドリーミーテクノロジー)の3社だ。ルンバにないライダーとモップをいち早く取り入れ製品力を高めた。強みはハードウエアのサプライチェーン(供給網)だ。成長した自国市場を背景に、量産効果を発揮した。ライダーの部品をスマホや家電と共通化するなどしコストを引き下げて汎用品にした。3社は低価格だけでなく、高付加価値の機能でもアイロボットを上回るようになった。例えばモップの自動乾燥や、落ちている物を拾うアーム(腕)の搭載だ。競争力を失ったルンバの世界シェアは17年の49%から22年には22%へと半減した。

3つ目の要因、すでに単独での生き残りが難しくなっていたアイロボットにとどめを刺したのが、アマゾンドットコムによる買収を米欧の規制当局が認めなかったことだ。アマゾンは22年8月に負債を含め約17億ドル(当時の為替レートで約2300億円)で買収すると発表した。米連邦取引委員会(FTC)や欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、アマゾンがネット通販で他社製品を不利に扱い、ルンバを通じて多くの消費者データを得ることに懸念を示した。承認が見通せずアマゾンは24年に買収を断念した。アイロボットは債権者で製造委託先の中国・杉川集団(ピセアグループ)系の子会社になる。
経営者への示唆として「顧客は“完成度の高い統合体験”を選ぶ」、「技術的に正しいか」より「選ばれるか」、「規制に守られる」戦略は、最後には武器にならない
iRobotの失敗は、技術軽視ではなく、顧客軽視でもなく、“市場変化の速度を軽視したこと”だったと感じた記事でした。